✦ SO WHAT Pick — Whisky & Shochu
スコッチ

ウィスキーの価格はイラン戦争でどこまで上がるのか

スコッチウィスキー
スコットランドの蒸留所。イラン戦争が、ここから日本の棚までの道を変えつつある。
目次
  1. はじめに:問いを立てる
  2. 第一の因数:原油高
  3. 第二の因数:物流コストと輸送日数
  4. 第三の因数:円安
  5. 第四の因数:包装資材
  6. 第五の因数:関税
  7. カテゴリーごとの上昇幅:どれが最も上がるか
  8. 逆説:希少・プレミアム品は「逆方向」に動く
  9. 結論:いつ、どの程度上がるか

ホルムズ封鎖、原油高、円安、物流コスト——価格上昇の五つの因数を解体し、カテゴリーごとの影響を考察する。

はじめに:問いを立てる

2026年2月28日、米国とイスラエルはイランへの軍事攻撃を開始した。ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥り、原油価格は急騰し、世界の物流が変容し始めた。

この戦争は、私たちが手にするウィスキーの価格にどう影響するのか。「値上がりする」という直感は正しいが、問題はその幅・速度・カテゴリーごとの差だ。本稿では、価格上昇の因数を一つひとつ解体し、その答えに近づいていく。


第一の因数:原油高

価格上昇の起点は、エネルギーだ。

戦争が始まる前、ブレント原油は1バレル70ドル前後だったが、3月26日時点で約108ドルまで上昇し、50〜54%の上昇を記録した。さらにWTI原油先物は一時1バレル120ドル近くに達し、最悪シナリオとして140ドルを超える可能性も専門家から指摘されている。

蒸留はエネルギー集約型のプロセスだ。麦汁の糖化、発酵温度の管理、ポットスチルによる蒸留——すべての工程に大量の熱と電力を要する。アイル・オブ・ラーセイ蒸留所は過去のエネルギー高騰局面で「エネルギーコストが30%上昇しただけで、1リットルあたりの生産コストが2倍になった」と明らかにしており、ウィスキーは長期ビジネスである以上、短期的にコストを吸収するしかないが、将来的な価格上昇は不可避だと警告している。

今回の原油高は、その吸収限界をさらに押し広げる。

ブレント原油価格の推移(2026年)

2026年3月末時点の情報に基づく。出典:野村総合研究所・各種報道をもとに SO WHAT 編集部作成

BTGスコットランドのマネージングパートナー、トーマス・マッケイは需要減少・コスト上昇・関税という三重の逆風を「完璧な嵐」と表現し、何世代にもわたって存続してきた蒸留所が自業自得ではない形で困難に陥っていると警告している。(出典:The Scotsman、2026年2月)


第二の因数:物流コストと輸送日数

コンテナ船
喜望峰迂回により、スコットランドから日本への輸送日数は10〜14日以上延長されている。

ホルムズ海峡の通航隻数は2025年の1日平均93.7隻から、2026年3月の1週間平均でわずか5.9隻へと激減した。スエズ運河を経由する従来ルートが使えなくなった結果、スコットランドから日本へのスコッチウィスキーはアフリカ南端・喜望峰を迂回するルートを強いられ、輸送日数が10〜14日以上延長している。

輸送日数の延長は単なる遅延ではなく、在庫資金の長期拘束とリスクプレミアムの上乗せを意味する。海運アナリストは「今後キャリアは燃料費・緊急紛争料を含む、可能な限り多くの、可能な限り高額の追加料金を課す方針であり、Q3 2026以降の輸送コストはさらに上昇する」と明言している。

中国から北欧・地中海向けの平均スポット運賃はすでに2023年末の紅海危機前と比べて48〜79%高い水準に高止まりしており、このコストはいずれ小売価格に転嫁される。

ホルムズ海峡 1日あたり通航隻数

2026年3月9〜15日時点のデータに基づく。出典:IMF PortWatch をもとに SO WHAT 編集部作成


第三の因数:円安

原油高が長期化すれば、エネルギー輸入に必要なドル買い・円売り需要が膨らみ、円安圧力として働く。野村證券の試算では10%の原油価格上昇だけで年率2兆円強の円安要因が発生する。

スコッチ・バーボン・アイリッシュはすべてドル建て・ポンド建てで取引される。円安が進めば、輸送コストや製造コストとは無関係に、日本の消費者が支払う価格は上昇する。これは「海外で起きていること」が、為替というチャンネルを通じて国内の棚に直結するメカニズムだ。


第四の因数:包装資材

見落とされがちだが、ボトルそのものの原価も上昇している。湾岸諸国は世界のアルミニウム供給の約9%を担っており、3月のアルミ価格は8%上昇した。3月28日にはイランがUAEのアルミ生産施設を攻撃し、大規模な生産障害が発生している。ガラス瓶の製造に必要なソーダ灰・燃料コストへの波及も続いており、1本のウィスキーボトルはその「器」のコストからも押し上げられる。


第五の因数:関税

エネルギーと物流だけが、ウィスキーを押し上げているわけではない。戦争以前からすでに進行していた「関税」という第五の因数が、今回の地政学的ショックと重なり、影響をより複雑なものにしている。

2025年、米国はすべての英国輸入品に10%の関税を課した。その結果、スコッチウィスキーの米国向け輸出量は5月から12月の8ヶ月間で前年比15%減少し、金額ベースでも7%の落ち込みを記録した。スコッチにとって最大の輸出先を失いつつある中でのエネルギー・物流コストの追加上昇は、業界の体力をさらに削ぐことになる。

バーボンも例外ではない。米国内では過剰在庫と需要鈍化が続く一方、輸出市場では世界経済の減速が購買意欲を抑制しており、「作れば売れる」時代は完全に終わった。

関税・エネルギー・物流・円安・包装——五つの因数が同時に動いているという構造が、今回の価格上昇を単純な「戦争の影響」で語れない複雑さの本質だ。


カテゴリーごとの上昇幅:どれが最も上がるか

ウィスキーボトル
スコッチ・バーボン・ジャパニーズ——カテゴリーによって価格上昇の速度と幅は異なる。

カテゴリー別・価格上昇リスク評価(SO WHAT 編集部)

※2026年4月時点における編集部の定性評価。物流・エネルギー・為替・包装・関税の5因数を総合したリスク指数(満点5)。

五つの因数を踏まえると、カテゴリーによって価格上昇の幅と速度には明確な差が生まれる。

スコッチウィスキーが最も複合的な影響を受ける。物流・エネルギー・包装の三因数がすべて直撃する上、戦争前からすでに構造的な逆風にあった。2025年の時点で米国への輸出が10%関税により量で15%・額で7%減少し、スコットランドでは蒸留所の19%が財務的に困難な状態にあった。体力を失いつつある蒸留所が、新たなコスト上昇を吸収し切れるかは不透明だ。値上がり幅が最も大きく、かつ速くなる可能性が高いのはこのカテゴリーだ。

実際、ディアジオはジョニーウォーカー・タリスカー・ラガヴーリンを含む複数のモルト蒸留所で「現在の需要に対して生産能力を調整する」として、生産縮小をすでに発表している。

スコットランドの蒸留所は業界雇用者の半数以上にあたる1万人超を直接雇用しており、業界関係者からは政府による迅速な支援を求める声が上がっている。(出典:The Scotsman、2026年2月)

バーボン・アメリカンウィスキーは産地がホルムズとは地理的に距離があるが、日本への輸出では喜望峰迂回の影響を受ける。米国内では在庫の積み上がりと需要の低迷が続いており、値上がり幅はスコッチより抑制される可能性がある半面、世界経済の減速が長引けば消費自体が縮む。

ジャパニーズウィスキーは国内生産のため物流因数の影響は相対的に軽微だが、免れない構造問題がある。2024年に日本への輸入スコッチ量は20%以上増加しており、輸入原酒を使用するブレンドへの価格転嫁圧力は生じる。また、円安進行は輸出競争力を高める一方、輸入原料コストを押し上げる。

ニューワールドウィスキー(インド・台湾等)は産地ごとに明暗が分かれる。エネルギー輸入の中東依存度が高いインドは生産コスト上昇を受けるが、英国・インド間のFTA交渉(2026年後半の批准が見込まれる)が進めば、スコッチとの価格競争において相対的な優位性が生まれる可能性もある。


逆説:希少・プレミアム品は「逆方向」に動く

プレミアムウィスキー
希少・プレミアムウィスキーは、コスト高騰局面でも需要が底堅く、価格は逆方向に動く可能性がある。

価格が上がる局面で、さらに上がるセグメントがある。

蒸留所がエネルギーコスト高騰によって生産を縮小すれば、もとより供給と需要の乖離が続いていた希少ウィスキー市場でその差はさらに広がり、価格が一層速く上昇する可能性がある。ウィスキーコンサルタントは「最上位・希少カテゴリーの需要は底堅く、コレクターや富裕層は短期的な市場センチメントよりも品質・産地・長期的な価値に目を向けている」と述べている。

大衆価格帯は可処分所得の圧迫を受けて需要が落ちる一方、プレミアム・コレクタブル帯はインフレヘッジと希少性の高まりで価値が上がる——市場の二極化が加速するとみるのが自然だ。

ウィスキーコンサルタントでカスクブローカーのブレア・ボウマンは、最上位・希少カテゴリーの需要は底堅く、コレクターや富裕層は短期的な市場センチメントよりも品質・産地・長期的な価値に目を向けていると指摘する。(出典:The Scotsman、2026年4月)


結論:いつ、どの程度上がるか

価格転嫁のタイムライン(想定)

※ SO WHAT編集部作成。戦争の長期化シナリオをベースとした想定。実際の転嫁時期は情勢により前後する。

価格転嫁にはタイムラグがある。原油価格の上昇が日用品・食料品の価格に転嫁されるまでには半年程度かかるとされており、ウィスキーのように製造・熟成・輸送に長期間を要するカテゴリーでは、今起きているコスト上昇が店頭価格に反映されるまでさらに時間がかかる。

ただし、輸送コストはより速く動く。Q3 2026以降に輸送費サーチャージが上乗せされれば、輸入ウィスキーの卸値はその時点で跳ね上がる。小売価格への転嫁は、年内後半から2027年にかけて段階的に進む可能性が高い。

「どこまで上がるか」という問いへの答えは、戦争の長期化次第だ。原油価格が87ドルで推移するベースシナリオから、ホルムズ海峡が長期完全封鎖となる悲観シナリオ(140ドル超)まで、複数の経路が想定されている。楽観シナリオでも輸送コストの高止まりは避けられず、悲観シナリオでは製造コスト・円安・物流費のすべてが同時に悪化する。

確かなのは、値上がりの方向だ。幅と速度は情勢に左右されるが、この問いの答えが「下がる」に変わる要因は、今のところ見当たらない。

📺 もっと深く知るための動画

🥃 この記事に合わせて飲みたい

マッカラン 12年 シェリーオーク

マッカラン 12年 シェリーオーク

スコッチハイランドシェリー
🥃

ラフロイグ 10年

スコッチアイラスモーキー
🥃

アードベッグ 10年

スコッチアイラピーティー
🥃

グレンリベット 12年

スコッチスペイサイドまろやか
  • 本サービスは20歳以上の方を対象としています。
  • 未成年者への酒類の販売および提供は法律で禁止されています。
  • 妊娠中・授乳中の飲酒はお控えください。
  • 飲酒運転は法律で禁止されています。
  • お酒は適量を楽しみましょう。